2012年6月29日金曜日

東日本大震災と文化の継承

(先ほど、タイトルをつけ忘れたので再投稿します)
はじめまして。お茶の水女子大院のharu@sanrikuです。

本題を説明するためにも、まずは自己紹介から。
お茶大の学部卒業後、東北地方の新聞社で12年間記者生活を送り、この春より
仕事を一時休職して、お茶大院で学ぶ社会人学生です。
東北の地方紙の記者としてのもろもろの取材経験から、地方自治体の文化政策、
市町村合併、文化財や伝統芸能の保存・・・などなど関心だけは山ほどあるのですが、
まずは、現在の東北地方にとって、また日本にとっても最大課題であろう、
東日本大震災について、「文化の復興」の観点から問題提起してみたいと思います。
私自身、津波被災地の岩手県宮古市出身であり、
震災からの復興については、特別な思いがある、ということもあります。

震災後、取材で被災各地を歩いてきましたが、
災害、そしてそこからの復興は、その地域にとっての「文化とは何か」を突き付けてくるものでも
あると感じています。

被災地では、博物館、美術館、図書館など、あらゆる文化施設も被災しました。
岩手の沿岸で、泥をかぶり、廃墟のようになってしまった博物館を見たときの切なさは、
自分自身、言葉にできないものがありました。
さらに、地域に残る文化財、古文書、伝統芸能の道具などの多くも、津波で流失しました。
地域の歴史、アイデンティティの「物証」となっていたものが多く失われたともいえるのです。
原発事故の影響で、避難区域となった地域では、
その被害状況の把握さえもままなりません。
そんな中で、自分たちの地域の文化をどう後世に語り継いでいくのか。
そもそも、自分たちの地域の文化的なアイデンティティとはなんだったのか・・・、
改めて問われているように思うのです。

もちろん、文化は決して物質的なものだけではないことも明らかです。
避難所や仮設住宅ではそれぞれの地域の方言が飛び交い、
祭りや伝統芸能の上演を再開する人々や地域も出てきています。
昨夏、被災した方々が、震災以来初めて、伝統芸能の鹿踊りを演じる場におじゃました時は、
家々や街並みは失われても、脈々と人々の中に流れ続ける地域の文化の根のようなものを
感じ、思わずこみあげてくるものがありました。

震災復興に向けては、今後の住まいの確保、高台移転、雇用、産業の復興など
課題は山積し続けていますが、国や自治体の復旧・復興計画の中で、
文化の復旧・復興、継承がどう位置付けられていくのか、非常に気になるところです。
震災以前から、地方自治体は厳しい財政事情から文化予算を削減する傾向にあり、
「まずは雇用」「まずは住まい」という緊急的な課題の中では、
さらに軽視されがちになってしまいます。
ただ、地域の文化の継承も真剣に考えていかないと、10年先、20年先、
地域の核たるものが失われてしまうような気もします。

なんだが、散漫な文章になってしまいましたが、
災害からの文化の復興の意味をどう考えたらいいのか、
東日本大震災に対する思いでもかまいませんので、
皆さんの声をお聞きしたいです。

最後に情報提供ですが、被災地域の文化を守る、民間レベルの動きも多々あり、
それらの活動も非常に注目されるところです。

http://savemlak.jp/ (博物館、美術館の被災・救援情報サイト。
専門家のボランティアを募り、被災文化施設の復旧応援も行っています)
http://www.miyagi-shiryounet.org/ (宮城資料保全ネット。被災文化財や古文書などの
レスキュー活動を行っています)

皆さんの感想・ご意見お待ちしています。
また、被災地出身の一人として、とにかく、震災を風化させず、
皆さんの思いのどこかにとどめ続けてほしい・・・とも思っています。


茶・haru@sanriku




6 件のコメント:

  1. 非常に重要な問題提起をしてくれました。
    そうなのです。もちろん雇用や住まいが大事なのは言うまでもありませんが、コミュニティが分散してしまって、文化の継承は非常に難しくなっています。後で取り戻そうと思っても取り戻せなくなってしまうのが文化だということを考えると、今こそ真剣に取り組んでおく必要のある分野だと私は思います。まだ博物館や美術館は救援すべき「モノ」がある分いいですが、無形の文化は非常に難しいですね。
    コミュニティの崩壊で文化の継承がままならない事例がたくさんあるだけに、今回の東北の問題で新しい挑戦が始まりますね。
    (M.K)

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  2. はじめまして。青学の斉藤と申します。
    私は、劇団の制作部というところで仕事をしているのですが、劇団の演目レパートリーに、子供を対象にした作品があります。この一か月、学校(小・中・高)の子供達向けの公演で、役者とスタッフが福島県をまわっており、ちょうど帰ってきたところです。旅公演中、笑いや元気を届けようと思っていた子供達から、逆に圧倒されそうなエネルギーをもらい、彼らにエネルギー負けしないよう芝居をしたという話を聞きました。また、現地の方に被災地を案内いただいた際には、「百聞は一見にしかず」の通り、目の前の様子に言葉が出なかったとのこと。文化という人の心にエネルギーを与えるものの力、必要性を折に触れて感じますが、直面する状況が厳しい時こそ、物質的な対応と並行し、この意識が共有できるといいですよね。
    (青・さいとう)

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  3. haruさん、はじめまして。
    経歴に惹かれて、ついコメントしてしまいました。
    haruさんがお仕事を休んで大学院という学びの場へ戻られたのは、震災で思うところがあったからでしょうか?(不躾な質問でしたらごめんなさい)

    2011年の震災によって、たくさんの人達が亡くなられ、たくさんの家屋が倒壊し、そのことに対して心を痛める事はあっても、今まさに失われていく文化ということに関しては意識した事もありませんでした。
    確かに、その土地に根付いている風習や文化が、それらを伝承していく人達がバラバラに暮らさざるを得ない現状では、少しずつ風化していってしまう気がします。
    心のケアだけでなく、文化のケアも行うために、その土地の人々が集まれる場所が無償で提供されるような制度がもっとしっかり整えばいいですよね。

    (茶・宇治)

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  4. 皆様、コメントありがとうございます。

    先生のご指摘の通り、コミュニティが分散する中での、文化をいかに継承するかという問題は、
    本当に深刻なものだと思います。コミュニティ、人々の離散という点では、
    福島がもっとも深刻ですし、岩手や宮城の津波被災地でも、仮設住宅が分散して立地していたり、若い世帯が雇用の問題などから内陸部に引っ越してしまったり、など、
    さまざまな問題を抱えています。
    「継承」が難しくとも、せめて、もともと住んでいた地域にどんな文化や風習があり、
    どんな暮らしが営まれていて・・・ということをしっかりと記録することもまず重要ではないかと
    思います。それを、誰がどう担うのか、という問題もありますが・・・。
    海外の大規模災害(スマトラなど)、また阪神大震災などで、
    こういった問題への対応がどうなされてきたのか、興味深いですし、
    関連する文献や論文があれば、ぜひ読んでみたいと思います。

    青・さいとうさん、おっしゃる通り、直面する状況が厳しいからこそ、文化の重要性が
    際立ってくると思います。被災した方々は、生活再建へのさまざまな不安を抱えて
    いらっしゃいますが、少しでも、自分たちのもともとの暮らしの風習や、
    文化的なアイデンティティを感じられる場や仕掛けが重要ではないかと思います。

    茶・宇治さん、私が大学院で再び学ぶことになったのは、
    震災の影響も多分にあります。あまりに大きな、どう理解したらいいのかわからない事態に
    直面し、学問を体系的に学ぶことによって、少しでも何かの羅針盤、
    今後の震災報道のヒントを得たい、という思いがありました。
    文化の継承や復興について、それぞれの地域でさまざまな取り組みはあると思うのですが、
    被災範囲がかなり広範で、それらをなかなか集約できていないのが現状だと思います。
    ただ、日本全体の「世論」もある意味、非常に重要だと思います。
    直接、被災地へボランティアなどに赴かないまでも、
    遠方の方々に、震災や被災地に対する思いや関心を持ち続けていただくことも、
    何よりの支援だと思っています。

    皆様、またぜひご意見お聞かせください。

    茶・haru@sanriku

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  5. haru@sanrikuさん

    こんにちは。
    芸大のkalingaです。

    haruさんの掲載を読み、色々と更に考えながらもなかなか言葉にまとまらないので、またゆっくり書きたいと思いますが、共感するものが多くありました。

    私自身現在、岩手の大槌にて開催予定の、アート企画『野点』に携わっています。本番は、9月末から10月初旬ですが、準備のために月に1回現地に赴いています。
    今週もいきます。また、この企画は、準備の段階から様々な人に関わってもらいたいと考えており、地元の人・遠方からの人など、広く呼びかけています。
    今週や8月も実施するので、もしお時間の都合がつきましたら是非いらしてください!
    以下に詳細が載ったURLをつけます。このサイトは、ともに企画を準備している現地団体のHPです。またこのサイトのレポートに項目では、前回6月に実施した準備の様子を報告しているので、是非そちらも呼んで頂けると幸いです。
    http://hyotanjuku.jimdo.com/2012/05/08/%E3%81%8D%E3%82%80%E3%82%89%E3%81%A8%E3%81%97%E3%82%8D%E3%81%86%E3%81%98%E3%82%93%E3%81%98%E3%82%93%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8B-%E9%87%8E%E7%82%B9/

    現地で色々な人に出会いながら、復興に対する思いがそれぞれに異なることや企画に対する思いがそれぞれ異なることなど、に直面していっている状況です。
    また、「文化とは何か」を考えるとともに、「文化やアートに一体何ができるのか」ということを考えています。
    地元の何人かの人と話していると、地域の状況が一変したこと向き合いながら、今何が必要なのかを模索しながらささやかなながらも動いている人もいることを少しずつ知っていき、「家々や街並みは失われても、脈々と人々の中に流れ続ける地域の文化の根のようなものを感じる」とharuさんも書かれていますが、建物が流されても文化は流されないのだ、と改めて感じさせられることも多いです。

    文面では、何だか抽象的にしか書けず、申し訳なく思います、、、、
    このブログ関係者の人とoff会をして、是非会って話したいです。

    芸大 kalinga

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  6. kalingaさん、コメントありがとうございます。

    大槌で活動されているのですね!
    私は大槌から北へ車で40分ほど北の宮古市出身でして、
    新聞記者時代も、大槌の被災状況の取材に出向いたりもしましたので、
    身近に感じられる場所です。
    町中心部が根こそぎなくなってしまい・・・、見た目としても
    本当に悲惨な被災地域のひとつですよね。

    震災直後は、生きること、食べていくことで誰もが精いっぱいだったかも
    しれませんが、だからこそ、のアートの重要性があると思います。
    私自身、被災して姿を変えた故郷を思うと、
    いまだ、言葉にならない気持ちがこみあげてきます。
    「言葉で表現できなくなったとき、芸術が始まる」と聞いたこともありますが、
    被災地の皆さんが、言葉にならない、言語化できない思いをもっているからこそ、
    必要とされるアートがある、と私は確信しています。

    とはいえ、被災の度合いやその被災感情も、個々人で異なり、
    さまざまな意見を汲みながらプロジェクトを行ってくことは
    大変な作業だと思います。でも、被災地に生まれ育った一人としては、
    kalingaさんのような方や、そのご活動の存在は、本当に励みになります。

    私も、夏から秋にかけて、修論(文化関連ではないのですが・・・)
    のフィールド調査で、宮古近辺の沿岸部に
    たびたび入る予定です。機会がありましたら、ぜひいろいろお話できれば幸いです。

    オフ会も、ぜひ実現させたいですね!

    茶・haru@sanriku

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